地球探検　パプアニューギニア独立国　泉田裕章隊員　１０

　私は今、青年海外協力隊の理数科教師として、パプアニューギニアのマヌス州、州都ローレンガウのマヌス・セカンダリー・スクールに配属されています。

　今回は、「ブアイ体験」についての話をしようと思います。

 　パプアニューギニアには「ビートルナッツ」、または現地語で「ブアイ」と呼ばれる噛む嗜好品があります。インドネシアやマレーシア地方にある「びんろう樹」と同じヤシ科で、高さ１０～２５メートルくらいの高木、果実は鶏の卵より少し小さい大きさです。ブアイは、ダカ（マスタードの果実）と、カンバン（石灰）を一緒に噛み、すると赤く変色し、軽い陶酔感があります。特に年齢制限はなく、子どもから大人まで、ガムのように噛んでいます。

ブアイの木は細くて高いので、大人は木に登ってブアイを収穫することはできません。小学生くらいの子どもが足に滑り止めの草を巻いて器用に登って収穫します。１本の木から、約５０～１００個ものブアイが収穫できます。

　マーケットでは、大きさごとに値段がつけられ、１つ２０～３０円程度で買うことができます。店番は大人だけでなく、子どもたちもやります。小さな島ではブアイの木が無いこともあり、マーケットで大量に買って島に持ち帰る人も多くいます。

　ブアイは、ダカ（マスタードの果実）と、カンバン（石灰）がセットで売られることもあります。

　左下の写真のように、大きく分けて４種類のブアイがあります。一番左は若いブアイで、中が柔らかく、味もそんなに渋くありません。次は少し大きくなったブアイで、中は少し硬く、苦味が強くなります。そして黄色のブアイの中はとても硬く、ナイフで削りすこしずつ噛みます。一番右のブアイは、もう新芽と根が出ています。これを植えると約１０年でブアイの実がなるそうです。

　「ダカ」と呼ばれるマスタードの果実です。これは料理に使われることはありません。ダカをこのまま噛むと辛く、とてもスパイシーです。１本５円～１０円で売られています。中の小さな種を使ってマスタードソースが作れそうですが、これはちょっと違った種類のようです。

　「カンバン」と呼ばれる石灰の粉で、１小袋２０円程度売られています。原料はサンゴ礁。きれいに洗って、よく乾かし、パウダーになるまで細かく擦りつぶします。マヌス島の周囲にはたくさんのサンゴ礁があり、マヌス産のカンバンは質がよいと言われています。

　それでは、ブアイ体験をはじめます。

　まず、ブアイの皮を割り、中にある白い実を口の中でよく噛みます。この時の味はとても渋く、青くさい匂いが口の中いっぱいに広がります。唾液は飲み込まず、上手に唾液だけを外に吐き出しながら、ブアイが小さく砕かれるまで２０秒くらい噛み続けます。感じとしては、渋柿です。まさに渋柿です。

　ブアイが小さく砕かれ、柔らかくなってきたころに、ダカにカンバンを少しつけて、口の中へ入れ一緒に噛みます。ブアイだけではとても渋く、ダカだけではとても辛く、食べれなかったものが、ブアイとダカとカンバンで少し爽やかな辛さに変わります。なんだか少し、パプア人のようになってきました（笑）。

　そうしているうちに、唾液、ブアイ、ダカ、カンバンが化学反応を起こし、それらが赤く変色します。唾やブアイは飲み込まず、唾液だけを上手に外へ吐き出します（意外と難しい）。それと同時に少し体が熱くなり汗をかいてきました。おそらく、この化学反応で、血行がよくなり、発汗、そして多少の貧血症状を起こすのではないかと思います。軽い陶酔感と感じる人がいるのはそのせいだと思います。約２０分ブアイを噛むと終わりで、すべて外へ吐き出します。そうすると右下の写真のように、誰かが喧嘩をしてできた血痕と思われるような「ブアイジェル」が道端にできます。

　ブアイジェルは見た目も悪く、衛生上もよくないので、空港やスーパー、公共の施設などでは、タバコと共に禁止されています。もちろん、タバコ同様に健康上よくないので、国をあげて問題視されています。しかし、現地の人たちとブアイをやりながら話すと、お互いの距離が少し縮んだように感じました。パプア文化を味わい共有できたことが嬉しいですね。コミュニケーションツールのひとつとしては、とてもよいと感じました。