2020年11月3日をもって、今シーズンの尾瀬国立公園内施設は新型コロナウイルス感染の混乱もなく営業を終了しました。遅い山開きとなった7月こそ長梅雨のため入山者はまばらでしたが、8月以降はファン層を中心に客足が回復しました。コラム第1回目の今回は、何度も訪れたくなる尾瀬の魅力について山小屋の現場で働く方々にお尋ねしようと思います。
2020年に営業できた山小屋は尾瀬全体で20件中12件。各小屋とも最大収容人数の3割から5割程度の定員に設定し、体調不良の宿泊者が発生した時のために隔離部屋を用意して営業を再開しました。
弥四郎小屋のマネジャー橘紘平さんは「入館時に検温。食堂にパーテーションを設置し、風呂場の入浴者数を制限。やるべきことはすべてやりました」と、細心の注意を払った今シーズンを振り返りました。
「お客さまが状況をよくわかって来られているのでマナーよく楽しまれていました」と紘平さん。駒の小屋の三橋さんも「通常30名の定員を10名前後まで減らしたので宿泊予約をお断りする場面もありましたが、お客さまからはご理解を頂きました」と、前代未聞の社会混乱にありながら平穏な営業ができたことを評価されていました。
今年の状況は誰もがイレギュラーと認めるところでしょうが、長期的に見ると尾瀬の入山者数は減少の一途をたどっています。これは高齢化による登山者人口全体の減少とレジャーの多様化が主な原因ですが、「尾瀬が飽きられているのでは?」という懸念もないわけではありません。疑念を晴らすためにベテランの登山客に入山者数の減少について尋ねたところ、むしろ「昔が多すぎた」「木道の渋滞がなくてよい」「今が快適」と好意的な意見の方が圧倒的で「寂しくなった」という意見は皆無でした。営業の直接的な影響を受ける山小屋の方々も「減った分、リピーターが増えている」と登山客の満足度が増している点を尊重されていました。
また今回の取材では20代から30代の若い世代、女性登山者の増加が聞かれました。「特に土日・祝日は若い女性の方の予約が増えました」と駒の小屋の三橋さん。弥四郎小屋の紘平さんも「若い女性を意識しカフェではハーブティやケーキなどのメニューも開発して喜ばれています」と、徐々に登山客の世代交代が進んでいる点を指摘していました。
尾瀬沼地区長蔵小屋売店で働く中村さんは(写真右側)尾瀬へ何度も通ううちに住みたくなったそうですが、それが叶わないため住み込みで働きはじめたとのこと。
取材を進めていくうちに、世代を越えて尾瀬が人々を惹きつける魅力とは何なのだろうか? そうした疑問が湧いてきました。創業89年の弥四郎小屋を運営を任されている紘平さんは、子どもの頃から夏休みなどは尾瀬で家族と生活。学生時代も同級生がアルバイトに来られた思い出を楽しそうに振り返ります。そして、山小屋を経営する私が言うのは差し出がましいがと前置きしつつ、「ぜひ宿泊されて夜の星空、朝もやに包まれた尾瀬ヶ原を体感して欲しい」と日帰りだけではわからない尾瀬の1日の移り変わりの美しさを魅力に上げられました。
駒の小屋の三橋さんは女山と称される会津駒ヶ岳が女性向きなところを言及されていました。
「登頂までは急登もありますが、山稜は一転してなだらかな山です。春の残雪、夏のお花畑、秋の紅葉と彩り豊かな美しい山です。他の山岳地域とちがってゆっくりできる。これから挑戦しにいくというより山の中へ帰っていく、そんな山だと思う」と、居心地の良い自然という点を若い女性を惹きつける理由に挙げられていました。
入山者数は減りつつも、新しい固定ファンが着実に増えはじめた尾瀬国立公園。山小屋で働く皆さんが言うように、「じっくり、ゆっくり、自然を満喫する時間」を皆さんも楽しまれてはいかがでしょうか。
●できるだけ混雑日を避けたスケジュールを立てる
●尾瀬保護財団や山小屋のホームページなどで最新情報をチェックする
●マスクや消毒グッズを用意する
●すれ違う際は口を開けている方向に気をつける
●山行中は人と一定の距離を取る
●こまめに手を消毒する
●食べ回しや食器の使い回しは避ける
●道具の貸し借りを減らす
●山小屋やバス車内などではマスクを着用する
●体調が悪くなったら登山仲間や山小屋従業員に伝える