尾瀬の一番古い道「会津沼田街道」

尾瀬の一番古い道
「会津沼田街道」写真・文/浅井理人

「会津沼田街道」をご存知ですか? 尾瀬を通過する会津(会津若松市)と上州(沼田市)を結ぶかつての交易路で、400年の歴史がある古道です。近年は檜枝岐村と片品村が中心となって整備が進められ、魅力が再発掘されています。今回は、いにしえの時代に想いを馳せながら、尾瀬の美しい自然に彩られたこの会津沼田街道をご紹介いたします。

会津沼田街道の歴史

会津沼田街道は、群馬県側からは会津街道、福島県側からは沼田街道と呼ばれていました。1600年に真田信之が、沼田城から会津若松に行くために街道を整備したのが始まりと言い伝えられています。交易路として人々が行き来し、会津からは米や酒が、沼田からは塩や油を中心に運ばれていました。尾瀬沼畔(三平下付近または尾瀬沼東岸)に交易小屋が設けられ、明治初期までこうした物品の売買や交換が行われていました。

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檜枝岐絵図享和4年(1804年)赤道が沼田街道(檜枝岐村教育委員会所蔵)

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尾瀬ハイキングガイドと照らし合わせた沼田街道
(地図は尾瀬保護財団のサイトより)

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生活が根づいた昔の尾瀬

かつて尾瀬は檜枝岐村の人々にとって暮らしの一部でした。江戸時代にはネズコ(黒檜)やキタゴヨウマツを木羽板と呼ばれる屋根材に加工し、明治以降は「ムコウジロ小屋」と呼ばれる作業小屋を街道沿いの山中に建て、ブナを「ヘラ」や「杓子」に、ネズコを「曲げわ」に加工し売っていました。当時の貴重な収入源です。尾瀬では狩猟や釣りも行われておりました。尾瀬ヶ原の弥四郎小屋は釣り小屋が原点となっています。

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木羽板に加工されたネズコ

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ヘラや杓子の材料ブナ

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会津沼田街道を歩いてみよう

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七入から沼山峠までの道行沢(みちぎざわ)区間を実際に歩いてみました。このルートの見どころは巨木の立ち並ぶブナ林です。6月の新緑に包まれながら沢沿いの登山道を歩いていると、心が癒やされていくのがわかります。新緑の乱反射。沢の音とハルゼミの蝉しぐれ。森の香り。適度な湿気とマイナスイオン。この時期のブナ林の神々しさに、疲れや体にかかる負荷はどこかに飛んでいってしまいました。

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○出発:七入(山の神)

七入駐車場すぐそばの山の神にお参りして安全祈願。昔の人も仕事の場である山を守護する神様に手を合わせてから登り始めたことでしょう。

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いろいろな緑色

新緑はさまざまな色合いの緑が重なって美しい景色を作っています。萌黄色、萌木色、黄浅緑、若竹色など、日本の豊かな色彩表現は自然が元になっているのを感じます。

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いくつもの沢を越え

沼田街道の特徴はたくさんの沢を越えるところです。硫黄沢、赤法華沢(あかぼっけさわ)を渡り、五つの橋がかかる道行沢(みちぎさわ)に沿って登っていきます。沢沿いの登山道を行くと、その透明度、流れる音、空気の涼しさ、水の匂いに、五感が研ぎまされていくようです。

林床(りんしょう)に咲く花々

林床に目を向ければ、小さい花々も目を楽しませてくれます。クローバーのような三葉が可愛らしいコミヤマカタバミ。(左)珍しい黄色のスミレの仲間、オオバキスミレ(右)

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コミヤマカタバミ

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オオバキスミレ

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抱返ノ滝

岩肌に水があたり末広がりに分かれて落ちる抱返ノ滝。直瀑のような荒々しさはなく、どこか優しさを感じます。雪解けが終わると水量が減り、また違った印象になります。

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会津駒ヶ岳の山並み

標高1,540mまで上がると森の切れ目から会津駒ヶ岳の山並みが広がります。雪の白さと空の青さ、樹々の黄緑色の対比が見事。残雪が作る縞模様も美しいです。

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○到着:沼山峠

お疲れさまでした!沼山峠休憩所に到着です。休憩所とシャトルバスの乗り場、トイレがあります。2021シーズンは売店がなくなり休憩スペースのみになっていますのでご注意ください。

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会津沼田街道の楽しみ方

交易路としては使われなくなって久しい会津沼田街道ですが、登山道としては魅力たっぷりです。オススメの沼田街道の歩き方をご紹介します。

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日帰り沼田街道

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七入を起点に沼田街道をグルリと周る日帰りコース。シャトルバスを上手に利用することで無理なく日帰りで歩くことができます。

日帰りコース
七入→沼田街道→沼山峠→シャトルバス→御池→御池古道→七入

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泊まりでがっつりロングトレイル

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七入から沼田街道を通り、燧ヶ岳の裾野を周る二泊三日の山旅。ふくしま尾瀬の魅力を全部まとめて歩ける欲張りコースで、尾瀬沼、尾瀬ヶ原、三条ノ滝と見所を全制覇して周回できます。

泊まりコース
七入→沼田街道→尾瀬沼(泊)→見晴→赤田代(泊)→三条ノ滝→裏燧林道→御池→御池古道→七入

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(地図は尾瀬保護財団のサイトより)

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秋はリバースルートを

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新緑が素晴らしいということは・・・紅葉の時期も最高の景色が待っています!錦秋の沼田街道もオススメ!紅葉時期は沼山峠から七入に向けて下ると紅葉を見下ろしながらの登山になります。

尾瀬の新しい楽しみ方です。ぜひ会津沼田街道へ。

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